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名古屋地方裁判所 昭和40年(ワ)788号 判決 1966年1月19日

原告 ナカノ工業株式会社

被告 丸秀産業株式会社

主文

本件手形判決を取消す。

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  原告の請求原因 原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し、金一八万二八〇五円及びこれに対する昭和四〇年一月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

一、訴外東和自動車商会こと伊東司郎は、昭和三九年三月三〇日被告に宛て、金額一八万二八〇五円、満期昭和四〇年一月一六日、支払地及び振出地とも名古屋市、支払場所中央相互銀行内田橋支店なる約束手形一通を振出交付した。

二、右手形の裏書欄には、被告が第一裏書人として記載されており、拒絶証書作成義務を免除している。

三、原告は、右手形を満期日に支払場所に呈示して支払を求めたが、支払を拒絶され、現にこの手形を所持している。

四、そこで、原告は被告に対し、右手形金一八万二八〇五円及びこれに対する昭和四〇年一月一六日から完済まで手形法所定の年六分の割合による利息金の支払を求める。

と述べ、立証として、甲第一号証を提出し、証人山田慶和、同岩井保彦の各証言を援用し、乙第四号証の成立は認めるが、その余の乙号各証の成立は不知と述べた。

二 被告の答弁 被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁及び主張として、

一、原告の請求原因第二項は認める。しかしながら、被告が本件手形に裏書をなしたのは、昭和三九年三月三〇日、原告会社の従業員訴外山田慶和と本件手形の振出人である訴外伊東から、「訴外伊東は銀行取引が浅く、同訴外人振出の手形では銀行で割引ができないから、銀行に見せるために被告の裏書を欲しい。」と懇請され、被告には絶対迷惑をかけないということだったので、本件裏書に応じたものである。

二、仮に右主張が認められないとしても、被告が本件手形に裏書したときは、本件手形の満期日は昭和三九年四月三〇日と記載されていた。しかるにその後、本件手形の振出人である訴外伊東と本件手形の所持人である原告とが、被告には無断で右満期日を昭和四〇年一月一六日と書替えたが、右書替は被告に対して効力がないから、本件手形は被告に対する関係では適法に支払呈示されなかったこととなり、原告はもはや被告に対する本件手形の請求権を喪失したものであるから、原告の本訴請求は失当である。

三、(一) 訴外伊東は自動車の整備、飾備の仕事をしており、原告から用品類を購入していた。ところで、同訴外人は、昭和四〇年初頃原告に対し金五三万〇四一〇円の約束手形金債務を負担していたが、その内訳は次のとおりである((3)は本件手形である。)。

(1)  金額一四万三八〇〇円 満期昭和三九年二月二八日

(2)  金額八万六三二五円 満期昭和三九年三月三一日

(3)  金額一八万二八〇五円 満期昭和三九年四月三〇日

(4)  金額一一万七四五〇円 満期昭和四〇年四月三〇日

(二) しかして、右約束手形のうち、(1)及び(2)は決済されたが、(3)及び(4)は資金繰りがつかず負債として残ったが、訴外伊東は、右合計額金三〇万〇二五五円を支払えなかったので、原告に懇請して金額五万円の手形五通と五万〇二五五円の手形一通に書替えた。

(三) そして、訴外伊東は、右手形六通のうち、五万円の手形一通を決済し、その後昭和三九年一一月までに原告に対し金七万八一八〇円を支払ったので、同訴外人の原告に対する残債務は金一七万二〇七五円となった。

(四) しかるに、昭和三九年一二月一一日、原告方の従業員八名が訴外伊東の工場へ小型トラツクを乗りつけ、次の機械類を引き上げて行ったので、現在同訴外人が原告に対し支払うべき債務は残存しない。従って、原告の本件手形金請求は右理由によっても失当である。

(1)  コンプレッサー三馬力、一台、昭和三八年五月購入、一六万円

(2)  自動カッター、一台、昭和三九年九月購入、五万六〇〇〇円

(3)  電気ドリル1/4馬力、二台、昭和三八年七月購入、昭和三八年一一月購入、一万七〇〇〇円

(4)  電気ドリル、一台、昭和三八年九月購入、一万八〇〇〇〇円

(5)  丸ノコギリ(自動式)1/2馬力、一台、昭和三九年四月購入、一万八〇〇〇円

(6)  サンダー、一台、昭和三八年七月購入、一万二〇〇〇円

(7)  バイス台、一台、昭和三八年五月購入、八〇〇〇円

合計 金二八万九〇一七円

と述べ<以下省略>

理由

原告の請求原因事実中、被告が本件約束手形に原告主張の裏書をなし、拒絶証書作成義務を免除していることは、当事者間に争いがなく、その余の事実については、被告は明らかに争わないから、これを自白したものとみなすべきである。

そこで、被告は、原被告間において、本件手形金を請求しない旨の特約がなされていると主張するが、右主張に副う被告会社代表者間瀬秀一の尋問の結果はにわかに採用し難く、他に右主張を肯認するに足りる証拠はない。

そこで次に、被告の請求権消滅の抗弁につき考察するに、証人伊東司郎、同宇佐美信高の各証言及び被告会社代表者間瀬秀一の尋問の結果によれば、本件手形の満期日は、当初昭和三九年四月三〇日と記載されていたが、被告が本件手形に裏書人として署名した後に、原告と本件手形の振出人である訴外伊東司郎とが、被告に無断で、右満期日を昭和四〇年一月一六日と書替えたものであることが認められる。そうとすれば、本件手形の満期日は、被告に対する関係では変造されたことになるが、被告が右変造を追認した旨の主張・立証もないから、原告が被告に対する遡求権を保全せんがためには、右変造前の満期日によった支払呈示期間内に本件手形を支払場所に呈示すべきものであったところ、本件全証拠によるも、原告がこれを履行したことを認め得ないので、原告は被告に対する本件手形の遡求権を喪失したものと言わざるを得ない。従って、この点に関する被告の主張は理由があり、原告の本訴請求は排斥を免れない。<以下省略>

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